気配と囁き ―秘密の薔薇―

個人的な関心事についての日録風覚書。隠されたもの、語り得ぬもの、覆われたもの、向こう側、境界線上のもの、この世ならぬもの、過剰なもの、偏奇なもの、只事でないこと、などについて。

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その祈りの揺るぎなさは、、、

水のない冬枯れの疏水沿いの小道を南から遡った。

昼下がりに北から下って来た時には、風は冷たいながらも日差しはもう春のそれのように暖かかったのだが、この夕刻、薄曇りの空のどこにも陽の光は見えない。

道の左手の少し低くなったところに小さな空き地があって、道沿いに細長い物置小屋が建てられている。
そうしてその屋根が道行く者の丁度胸の高さのところにある。
小屋の端には地蔵尊を祭った祠がしつらえられている。

その建物の屋根越しに西の方を向いて、老婆が手を合わせていた。
粗末な衣服から質素な暮らしぶりが窺われた。

老婆の祈る視線の先には私鉄の線路があり、その向こうには特に神社や仏閣があるわけでもない。
何ものともつかぬ対象に手を合わせて拝む、その小さな背中から、静かだが一途な思いが痛いように伝わってきた。

両の手のひらをあわせたその指の関節が少し曲がっている、心なしか微かに震えているのが切ない。

老婆は、夕間暮れの一刻に、ただ一心に西方の空に向かって拝んでいるのだった。

背が丸くなった小さな老婆の姿に、人生の終端に差し掛かった人の、虚飾を捨て去ったひたすらな思いが表れていた。

静かで切迫した祈りの揺るぎなさ。
忘れない光景。
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